1987年からはじまったバサーオールスタークラシック。36回の歴史のなかでさまざまなことが起きた。この連載では歴史や裏話など、オールスターにまつわることをさまざまな角度からお伝えしたい。今回のテーマは「プラクティス」、つまり練習。その進め方や期間は人それぞれだ。実際、選手たちがどんな一日をすごしているかはなかなか表に出てこない話である。今回は2024年大会で準優勝した草深幸範さんの練習についてインタビューさせてもらった。
草深幸範(くさぶか・ゆきのり) 1976年生まれ。東京都出身、茨城県在住。ボトムアップ勤務。霞ヶ浦のW.B.S.のトーナメントアングラー。AOYを3回、クラシック優勝2回獲得。オールスタークラシックには6回出場。2024年大会は準優勝。
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草深さんがオールスタークラシックに初出場したのは2005年大会(夏開催)。2004年にW.B.S.クラシックで優勝したことが招待のキッカケだった。 草深「2004年は最終戦まで年間1位だったんですが、最終戦でマクられてしまった。お金のやりくりがギリギリのなかでトーナメントに出ていたので、翌年以降はお休みしようと考えていました。当時は釣具店をやっていたので、休みをとるのも簡単ではなかったですし。そんななかクラシックで優勝して翌年のオールスターに出られることになった。結果、2005年からも無理をして試合を頑張ろうということになったんです」
プラクティスは試合前に1週間行なった(W.B.S.とオールスターの競技エリアは同じだったので、霞ヶ浦は日常的に釣っていた)。宿と土浦新港を往復する日々で、経費は20万円ほど。食事はスーパーの閉店間際の弁当で済ませ、使えるお金のすべてをボートのガソリン代にあてていた。この試合で草深さんはビッグフィッシュ賞を獲得し3位入賞している。
本題に入ろう。2024年大会、草深さんは試合前週の木曜日から前々日までをプラクティス期間とした。9日間ぶっ通しである(前日はプラ禁止)。プラ開始日の前日はボトムアップ社内で仕事。19時ごろに退社し、帰宅して20時には入浴。風呂には長めにはいる習慣がある。防水ケースに入れたスマホを持ち込み、天気・風速予報を見つつエリアの回り方などを考えるのだ。気を抜きつつも考え事ができる入浴は草深さんにとって大事な時間だ。風呂から出たら食事をとって発泡酒を1缶飲んで22時には就寝。そしてプラクティス初日の朝を迎える。
11月なので日の出は6時。ただしマリーナ(洲ノ野原・タイフーン)で準備をしたいので5時には着いていたい。逆算すると3時起きになる。起床したらまずはコーヒーを飲み徐々に身体を目覚めさせ、4時に出発。計画どおり6時にひとりで出船。9日後の本番は水温が大幅に落ちていることを考慮し、冷えたときに釣れそうな場所と釣り方をひたすら試した。たとえば利根川の消波ブロックなどである。結果は3日間ゼロ。プラは暗くなり始める16時までみっちり行なう。冬季は日が出ている時間が短いので身体が楽なのが嬉しい。一方、時間が少ない焦りは常にあるという。正解が見えないままあっという間に一日が終わる感覚だ。
ガソリンはプラでは一日60〜70l使用する。草深さんのケイマスCX21はガソリンタンクに200l入るので、プラ期間は3日に1回の給油でOK。タイフーンでボートを艇庫に入れたあとは5分でシャッターを閉めて帰宅。プラ後は頭を使ってヘロヘロなので翌日の準備は朝するようにしている。18時には自宅で食事後に入浴。21時には就寝。そして4時に起床。睡眠時間は7時間。プラ2日目以降はひたすら早寝早起きの繰り返しである。ここでひとつ疑問がある。オールスターでは試合前日に湖上に出ることが禁止されている。この日は何時まで寝るのか?
草深「前日も4時には起きます。このころには完全にリズムができているので、目覚ましが鳴る1〜2分前には目が覚めますね」
起きたあとはマリーナへ。早朝から昼までゆっくり準備して、午後はSDG横利根マリーナでボートの点検(グリスアップや増し締めなど)をしてもらい、その後車の洗車をして万事OKの状態に。16時にはボトムアップ社にボートを置いて帰宅。20時ごろには就寝して試合初日は2時30分起きだ。ちなみに試合当日はボトムアップ社でボートをヒッチメンバーに接続して会場へ。その際、すぐ後ろを後輩の車に走ってもらっている。万が一の追突事故を防ぐためのリスクヘッジだ。道中はコンビニに寄る。購入する食事や飲み物はプラ期間でよく釣れた日の内容に揃えている。
最後にメンタル面についても聞いた。
草深「若いころはプラのときからギラギラしていましたね。ただ自分の場合、事前からあまり気を張りすぎると本番で判断ミスをすることがとても多い。ギラギラしすぎてると正しいジャッジができないんですよ。だから今は昔みたいにテンションを上げないようにしていますね。年を重ねて自然とそういうことができるようになりました」